「筍は変わってるよな。土食うやつなんて見たことないよ」

 筆をいそがしく走らせながら葉月は言った。

「お腹壊さないのかよ」

 となりで下を向いたまま筍が答える。「食える土と、食えない土があるんだ」

そう言うと、筍は普通の土より黄色がかかった土をつまんで見せた。

「これが、食える土」

 お前も食えよ、と勧められないか心配だったがそんなことは無さそうでひとまず安心する。

でも、と葉月は切り出した。

「でもやっぱ土食うのはやめた方がいいと思うなー。とーまとかだって、ドン引きしてたぜ」

 自分も、とは言わない。すると筍が向き直って言った。

「はづきも?」

「え?」

「はづきも引いてるのか?」

 澄んだ黄土色の目に見つめられて、思わずだじろいだ。

「そ、そんなことはないけど」

 あわててスケッチブックに向き直る。鼓動が速くなっている気がしたが、理由はわからなかった。

「ふうん、じゃあいいや」

「え、いいって、なにが」

「や、え、はづきが引いてないなら、いいよ」

 他の人のことはよくわかんないしな、と、筍はあくびをしながら言う。

その横顔とさっきの澄んだ目がいまいち噛み合わずしっくりこないでいると、またもや筍が目を合わせてきた。

「僕は、はづきがいいなら、いいんだよ」

 ゆっくりと噛み締めるように言う。

心なしか上気した頬が、白い肌によく映えた。蛇みたいだ、と思ったあと、射ぬかれた、と葉月は思った。

筍から逃れられないかもしれない、

なにが?そこまで考えるには頭が足りないようだ。

byたくあん